あの犬この猫そこの馬

自然を基調に、エソラゴトをのんびり考えていく

どこか遠くから迷い込んだ犬は身の上話をしてくれない

5、6年の間、一緒に過ごした犬がいる。

 

家から車で30分ほどの高原で出会った、迷い犬だった。

ハスキーの血が混ざったその子は、1週間たっても高原に残されたままで、近所のちょっとした噂になっていた。その時はちょうど真夏で、あたりに飛び回るハエを空中で器用に口で捕まえていては食べていた。寒さに凍える心配はなかったが、十分な食べ物がそこにあるとも思えなかった。

その高原は、いわゆるちょっとした観光地になっていて、遠くから旅行でくることもあるので、飼い主を探すとなると大変だったかもしれない。迷い犬を探しているとの情報も終始聞くことがなかった。

 

父もさすがに放っておけなくなったのか、ある日私が小学校から帰ってくると、その子が家の庭で繋がれていた。

迷子犬らしい、と聞いたときから、私は親にウチに連れてきてあげようよ、と強く言っていたので、あの時はこれからの日々を想像して心からワクワクしたのを覚えている。

 

前の飼い主はその犬を番犬にしたかったのか、トゲトゲのごつくて黒い首輪をしていた。それに、車の旅にもよく慣れているようだった。

念のため獣医さんに連れて行くと、おそらく4、5歳だろう、とのこと。正確な誕生日は知る由もないので、私たちはその犬を迎え入れた日をそのまま誕生日にすることにした。

 

名前はユキになった。

ハスキーの白さが映える美人な彼女には、とてもふさわしい名前だと思った。

 

ユキとともに、私も学年を上げていき、途中で引っ越したりもしながら、比較的波のない時間を過ごした。その間、一度も元の飼い主を名乗る人は現れなかった。散歩も家にくるお客さんも大好きで、冬の寒さと雷が苦手な、愛らしい犬だった。

ユキの最期も、静かに訪れた。

 

それ以来、私の中で、彼女の記憶は遠いどこか不思議の国で起こったかのように、ふわふわしたものになっている。

何故だろう。

他の猫や犬は、別れたあとも、よく生前の様子を覚えている。それなのに、ユキだけは、記憶が実体をもたない。思い出そうとすると、幻のように霞んでしまう。

 

きっと、あれだ。

ユキといる間、常に別れを予期していたのだ。

元飼い主が、突然現れて、引き取っていくかもしれない。ユキの過去を知らないし、どんな家でどんな生活を送っていたのか、まったくわからない。この子は、私の家族に完全に属していると言ってしまってはいけないような気がした。そんな後ろめたい思いが、ユキの影を薄くしているのかもしれない。

それでずっと、突然訪れるかもしれない別れへの、心の準備をしていた。

心の準備は、死という形で本番を迎えてしまった。

 

 

1週間後は、ユキの命日だ。

なんとなく彼女の存在の不思議さを思い出していたら、昨日家族から写真が送られてきた。

少し思い出に浸っていたので、その形として。

 

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