あの犬この猫そこの馬

自然を基調に、エソラゴトをのんびり考えていく

森に飲み込まれた神社は幻をみせる

神社の魅力はなんだろう。

 

昔住んでいた家の近くの山奥に、小さな神社があった。

朽ちかけた鳥居が何個も連なって、斜面に張りでた木の根っこを階段代わりに登っていくような、人間よりも獣の気配が色濃い神社。

杉で囲まれたその場所は、真夏でもひんやり涼しくて、いつも少し湿気があった。

一年に一度、春先に20人くらいでとりおこなう祭りがあるだけで、それ以外は誰も訪れない、閑散とした神社だった。

母がいつも言っていたのを思い出す。「クマが出るから1人で行かないように。」

 

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(境内に入って振り返った時の写真)

 

小学校3年生くらいだったか。

友達が家に遊びにきた。家の中での遊びを大方やり尽くした私たちは暇になったので、大人たちに内緒で、その神社にいくことにした。ちょっとした冒険気分だった。

3人で森の影に覆われた斜面をのぼっていく。

風で揺れた木の葉のこすれる音、セミの鳴き声、知らない鳥のさえずりが響く。

今まで子供だけで森のなかに入ったことのなかった私たちは、知らない世界に放り込まれたような空恐ろしさを感じて、それでも何かワクワクするものを見つけたくて、言葉少なに黙々とのぼっていった。

 

子供の足で歩いても家から10分もかからないその神社は、しかし、馴染みのない空気のせいか、異様に大きく膨らんで見えた。

友達はどう思っていたのかわからないけれど、きっと似たような感じだったのだろう。

私たち3人は、鳥居の入り口を前にそれ以上進む気になれず、お互いの顔と奥のホコラを交互に見ながら、その場に佇んでいた。

 

湿気か、暗さか、朽ちかけた人工物を蝕むコケか、それとも川の流れるかすかな音か。何が彼女にそんなものを見せたのか今もわからないが、1人がそっと口を開いた。

 

「あそこの白い人は誰?」

 

意味がわからず「え?」と聞き返すと、ほらあそこ、と手水舎を指差した。

私には何も見えなかった。

 

しかし、これが決定打だった。

恐怖が頂点に達した3人は変な悲鳴を残しながら、全速力で斜面をくだった。もちろん振り返る勇気なんてなかった。ほとんど止まらなかったと思う。ほぼ一息で家まで走り戻ってきた私たちは、息を切らしながら家の中になだれ込む。

そして、何事かと見に来た母に、私たちは秘密の冒険なんていう名目をすっかり忘れて、興奮気味に(ちょっと得意げに)今さっきの不思議な体験を洗いざらい話すのだった。

 

今思えば、白い人が見えたと言った例の子は、普段からお化けが見えると言っていた。

心霊系のテレビ番組が好きだったその子は、霊感というものに憧れていたようで、普段から見えるふりをしていた。少なくとも私はそう思っていた。

第六感など持ち合わせたことがないので、その子が本当のことを言っていたのか、それとも演技だったのか、確かめる術はない。

 

本当にあの神社にそういう何かがいたとは思わない。

ただ、幼い子供の目に幻覚を見せるには十分なくらいに、色々な気配が織り混ざった場所だった。

 

人が造った「神聖な場所」が、森に飲み込まれつつあるその光景が、子供たちを困惑させたのだ。

果たしてこの境内は、人間のものか、それとも森のものか。

そのあいまいな境目が、未知の存在を生み出してしまったのだと思う。

 

その神社は、タヌキ、シカ、ウサギ、キツネやリスが通り道にしているようだ。クマの糞も見つけたことがある。鳥のさえずりと蝉の鳴き声。時々パキッと枝の折れる音が大きく響く。頭上で影を落とす木の葉には、毛虫だっていっぱいついている。

 

その神社が纏う気配は、複雑すぎるのだ。

一つ息を吸うだけで、色々な森の匂いが混ざっていることに気づく。

瞬時に、ここは人間が自分たちの身の安全を守るための場所ではないことを知るのだ。

 

その境目にきているような感覚が、妙に気分を高ぶらせる。

朽ちかけた神社には、そんな魅力があると思う。

 

(それでも、クマ対策は忘れずに。)

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