あの犬この猫そこの馬

自然を基調に、エソラゴトをのんびり考えていく

雪が降り、葉っぱの色素を抽出した日

もう数年前のことだというのだから、時間の流れは信じられない。

 

f:id:sen24:20180710121539j:plain

 

冬の、生物の実験だった。

夕方6時から始まる授業だったため、この科目を選んでいる生徒は少なかった。

総勢6人の小さなクラスだったのだ。

 

ほうれん草の葉をすりつぶして、それぞれの色素を分離させるだけの簡単な作業。みんな、手元に集中するよりも、雑談に花を咲かせていた。

その上、この日は、その街では珍しく雪が降った日だった。

 

雪の降る夜、少人数で、冗談好きの教師の元、簡単な手作業をしている。

絶好の雑談日和だった。

 

話は次第に盛り上がっていき、ついにそれぞれの結婚観について、実験室じゅうに意見が飛び交った。

しかし、(恥ずかしながら)そういう場でワイワイと話すのがどうにも上手くできない私は、ただじっと聞いているほかなかった。

 

定年退職を目の前にした生物教師が言う「娘が独り立ちしたあとも、妻と暮らせば暮らすほど、彼女のことをどんどん好きになっていくんだ。恋っていうのは理由ないものなんだよ」

聡明で目立ちたがり屋な男子学生が言う「最高のパートナーを見つけるのに一番重要なことってね、まず自分自身を知ることなんだ」

一緒に葉っぱをすりつぶしていた隣の子が言う「なぜ今の彼を好きなったのかは上手く説明できないけど、家族に彼を自信を持って紹介できるのは確かだよ」

 

6人という人数の中では、私の存在の割合はけっこう大きいもので。

なぜか一人一人が話していく流れになってしまった部屋の雰囲気は、私に冷や汗をかかせた。あくまで実験の本筋から逸れた雑談なので、誰も無理強いはしなかったけれど。

それでも私にできたことといえば、明日は雪の影響でバスが動かないんじゃないか、というつまらない世間話だけだった。

 

人生のうちの、どの段階で「自分の意見を口に出す」能力を身につけるべきだったのだろうか。

私はいつ、その習得を怠ってしまっていたのだろう。

同じ道をたどっていると思っていた同年代は、いつの間にか私よりはるかに高い能力を開花させている。

言いたいことを考えているうちに話題が次に移っているんだ、と言い訳できたのはいつまでだったのだろうか。

 

誰かが親戚の壮大な駆け落ちを熱心に話している横で、ほうれん草に住まっていた色素は、4つに分かれて、着々と紙をのぼっていった。

 

f:id:sen24:20180710130906j:plain